ペアリングを外して

「部屋の様子を見れば、あたしの話、一瞬でわかるでしょ」

「まあ、荷物一式ないわけだから、そうだよな」

 帰宅した時の「A」の顔が見れるものなら見てみたい。

 安心しろ。

 三村は俺が責任持って幸せにしてやる。

 お前が否定した三村の希望を、俺が叶えてやる。

「とりあえず、どこ行く? 俺、何も考えずに走り出しちゃったけど」

「小出の家、行きたい」

 即答だった。

「了解」

 ウィンカーを出し、交差点を左に曲がった。

 横断歩道の前に群がる人々が、パレードの取り巻きのように見えて、まるで俺たちを祝福してくれているような気分になる。

「今日はどこに行っても人が多いし、やっぱ家が一番だよね」

「そんな理由かよ、田舎もん」

「自分だって同じとこ出身でしょ? ね、宅配のピザでも取ろうよ」

「お、いいね」

 車内には笑いが溢れ、幸せで満ちていった。

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