ペアリングを外して

 ステレオから流れるBGMに合わせて三村が鼻歌を漏らす。

 こんなシーン、十年前に三村を諦めた時に想像ができただろうか。

 俺も自然にハンドルを指で鳴らしてビートを刻んだ。

 アパートの前の駐車場に車を入れ、リアブレーキを踏む。

 エンジンを切る前、俺は我慢ができずに三村の顔を押さえ込んでキスをした。

「もう、すぐに家に着くでしょ?」

 笑う三村。

 これから毎日こうできるかと思うと、飛び跳ねたい思いだった。

 この部屋に住み始めて、久美以外の女を入れたことはなかった。

 これから先は、三村しか入らない。

 三村には最後の女になって欲しい。

 俺は三村の最初の男にはなれなかったが、最後の男になりたい。

「どうぞ」

「おじゃましまーす」

「違うだろ?」

「え?」

「ただいま、だろ。これからここにいるんだから」

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