【短編】『D』
先に飲み干した私は「私そろそろ帰るね」と言って扉に向かった。
まだ彼は何も話さない「じゃー、またね」扉のノブに手掛けた瞬間
背中に人の温かさを感じた。
初めは分からなかった。
でもすぐに彼に後ろから抱きしめられていることに気づく。
「げっ、玄明?!」かなり焦ったけど、こういう時は、あまり動かない方がいいって麻子が言ってたっけ。
私は玄明が落ち着くのをまった。
徐々に玄明の腕の力だ緩んでくる。
そこで私は「玄明?じゃー本当に帰るね」ゆっくり玄明の腕を私の手で下ろす。
抵抗することなく玄明は腕を解く。
扉を開け振り向き私は「おやすみ」そう言っドアを閉めようとした時
手を握られた。
私の体はもう部屋の外にいる。
手を振りほどけばすぐにでも帰れる。
でもそれでもできなかった。
彼は手を震わせながら、泣いていた。
下を俯き、目から落ちる雫が、床に落ちる音さえ分かった。
「・・・お願い、なに・・も・・・しないから、一緒に・・・いて?」
私はこの人を置いて帰ることができなかった。