【短編】『D』
『えっ??だっ駄目だよ!!せっかく内定決まったのに、すんごいことなんだよ。
入れない人だって一杯いるんだよ?!
しかも私の花屋なんてまだするかどうか決まってもないんだよ!!駄目だって!!』
かなり焦るって、とにかく駄目だよ。説得しなきゃ!反面ちょっと嬉しいけど。
しかし彼は真剣な表情で
『いいや、決めた。』
『いや、駄目だって、絶対就職した方がいい!!』
玄明は俯いたまま、話さなくる。
私もどういたらいいか分からずただ彼を観ることしかできない。
・・・5分ぐらい経ったのだろうか、ゆっくり彼は話し出す。
『俺にはもう、両親もばーちゃんもいない。
心を許せる人は七海さんしかいないんだよ。
だから、もう離さないから。
何があっても、一時も離れたくないんだよ!!』
そう言い放つと、玄明の目からは我慢しきれなくなった涙が零れ落ちる。
今、思い出した・・・その顔は、あの夏、別れの日電車の扉が閉まるときに見た表情だった。
彼は、あれから両親を失い、そして最愛のおばーさんも失った。
頼れるものはもう私しかいなかったんだ。
私は気づかない間に彼を抱き締めていた。