六花伝
複雑そうな顔をしている彼女に、伸彦は笑って言った。
「春になったら、桜を見に来ましょう。」
美都は、呆れたように苦笑した。
「咲かなかったら、どうするのよ。」
彼女の黒く澄んだ瞳を見つめて、伸彦は
「次の年も、そのまた次の年も、桜が咲くまで一緒に待ちましょう。」と言った。
その言葉の真剣さに、美都はこくりと頷いた。
「約束です。」
彼女は、それを聞くと満面の笑みになった。
「ええ!」
美都は、そう答えると伸彦の手を開き、笛を握らせた。
「二本あるから、これをあげるわ。約束の証に。」
木枯らしが、ひゅう、と吹いた。
「美都、そろそろ戻りましょう。冷えて来ましたよ。」
「ええ。」
美都は、「先に戻るわよ!」と明るく言うと、来た道を駆けていった。
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