六花伝
沙希お姉様が泣いている。
何で?
あたしは、この人の父親に殺されようとしているのに。
どうして憎めないの?
お姉様をぼろぼろにしてしまいたい。
一生苦しめばいい。
そう思っているはずなのに、手が、足が、一寸たりとも動かない。
いや違う、そうではない。
憎しみと相いれない感情もこの胸の内に確かに在る。
天女のように清らかな人だと知っているから、すがりたい。
あの小さな体にこの身をすべて預けてしまいたい。
「お姉様……あたし…」
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