六花伝
ああ、この気配なら知っている。
これは…

「の、ぶひこ………?」
「美都。」
「何で…」
伸彦は、するり、と部屋に入り込んだ。
動揺しながら伸彦へと手を伸ばそうとしたが、きつく両手を縛られているため、手首が擦れた。
「………つっ」
伸彦は無言だった。
沈黙したまま両手を伸ばすとぎゅっと美都のやせ細った体を抱きしめた。
美都は全てを悟った。
「……あ、」
言葉なんかいらなかった。腕の力強さ、温もり、それだけで良かった。
(あの時と同じ…)
美都は、瞳を閉じた。
『もう、大丈夫ですよ』
『私は、伸彦といいます。君の名前はなんですか?』
涙が頬を伝った。ぼろぼろとこぼれ落ちた。
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