六花伝
移動の時も、手かせ足かせは外されることは無かった。
籠にのせられて、運ばれた。
伸彦も、同行していた。
かれの手にある布に巻かれた細長い物を見て気付いた。
ああ、そうか。あたしは伸彦にころされるのか。
彼の手で拾われ、救われた命を彼が断つ。
なんて皮肉な人生。
彼が、室に入ってこられた理由がこれで分かった。
こんな立場にいれば、あんなことなんて造作も無かったに違いない。
伸彦に殺されると知って、不思議と安堵した。
彼の顔を見て死ねるだけでも幸せかもしれない。
干上がった河原に辿り着いた。
他の者はみな後ろに下がり、あたしと伸彦が残された。
伸彦は最後まで無言だった。
黙って布から小刀を取り出すとしっかりと握り締め、あたしの腹部に深々と刺した。