六花伝
おそらく、井戸で汲んだばかりの水は、まだ冷えていて、一番のごちそうに感じる。
自分がほっと息をついたのを見て、少女は笑った。
こんがりと日焼けした肌の、健康的な体つきで、長くのばした髪を後ろで黄色の紐で束ねた働き者の少女を見つめ、伸彦は思わず溜息をついた。
顔も、村一番の彼女に、何故良い縁談がこないのであろう。
…本当に、生い立ちのせいなのだろうか。
(長のことだから、出し惜しみして、全部断ってそうだなあ…。)
それは、とても惜しいことのような気がした。
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