甘い蜜



「………大切なんじゃなかったの」

「なにが」

「その………婚約…」


いつの間にかベッドの上で正座に代わっていた麻理亜は、膝の上で拳を握り締める。着ていたスカートに皺が入った。


「…………俺は、今年一杯で教師を辞める」

「……え?」

「教師辞めて、親父の後を継ぐ」


これが本当に麻理亜に話したかったことだった。余計な邪魔さえ入らなければ。


「先生を……辞める…?」

「あぁ」

「先生に成りたかったんじゃなかったの」

「まぁ確かになりたくなかったらならないな。教師なんて」


じゃあどうして、と言われても。


< 127 / 458 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop