甘い蜜
俺もそれ以上はその話に触れることはしなかった。
「じゃあ、私は行くよ」
「あぁ……頼んだ」
親父は頷くと、俺に背中を向けてドアに向かう。ドアノブを掴み半分開けたところで、振り返る。
「敬夜」
「何」
「幸せになりなさい」
思わず目を見開くが、しっかりと頷いた。
「あぁ………勿論」
「じゃあ、後で」
親父も一つ頷くと、部屋を出て行った。一人になった室内で、己の手のひらを見つめる。
なんだか可笑しな気分だ。
ふわふわとしてる。
満ち足りた気持ちだ。
これが、幸せというものなのか?