甘い蜜
ゆっくりと車を止め、目を凝らす。
黒いものだと思っていたのは人で、傘も差さずその場に立ち止まっていた。その人物の着ているものに見覚えがあった。
「!まさか……」
否、そのまさかだ。
慌てて傘を持って車から降り、そいつに近づいた。打ちつける雨粒は痛い。
「おい、こんなとこで何して――……」
そいつの顔を見て、目を見開く。
ゆっくりとそいつは顔を上げ、その目に俺を映した。
「……先生?」
「山内……麻理亜か?」
そいつは……俺の教え子だった。