甘い蜜
知らないんだったな。
「………早く準備して行かないとヤバいぞ」
「?どうして」
「………恐怖を味あうことに、なる」
俺は遠くを見ながら言う。
一度、母さんからの呼び出しを無視したことがあった。しかし、それは仕方なかったんだ。仕事に追われていた頃だったから。
母さんも分かってくれてるだろう、と思っていたのに、その翌日、一通の手紙が送られてきた。
思い出したくない。紙一面に埋め尽くされた。"酷い"の文字。
それから、暗い暗い声でかけられてきた電話。
ホラーの映画よりも遥かにホラーな体験だったと思う。
それ以来、母さんからの呼び出しには無視などせずどんなに忙しくても応じることにしたのだ。
「………すぐ、用意する」
さぁぁっと真っ青になった麻理亜は慌てて準備を始めた。
俺も、軽く身震いをした後に準備の続きをしたのだった。