甘い蜜

┠ 春眠暁を覚えず





――――春眠暁を覚えず



真新しい檜の香りが漂っている。
落ち着く、香り。


春。
寒かった冬から暖かくなる季節。


「ただいま………」


日も半分まで傾いた頃、ガチャと開けて、疲れたように玄関で靴を脱いだ。
せっかくの休みだったのに葛城の野郎仕事作りやがって………


はぁ、と溜め息をついて、ん?と首を傾ける。何時もなら、やってくる足音が、しない。


どうしたのか、と思いながら足を進めた。見慣れない景色に最近ようやく慣れてきた。
冬の終わりに、一駅分会社に近い場所に家を建てた。マンションのままでも良かったのだが、子供が産まれるにあたって庭があった方が良いだろう、と考えて決めた。


まだ新築なので木の香りがまだする。


「麻理亜、いないのか?」


まず寝室に顔を出すが誰もおらず、荷物を投げて向かい側の子供部屋に顔を出すがまたもやいない。



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