甘い蜜
「壱斗とこの子に敬夜さん取られたら、嫉妬しちゃうかも」
まだ膨れていないそこには確かに新たな命が宿っている。
俺は、麻理亜の手を握る力を少しだけ強めた。
「馬鹿だな、それ以上にちゃんと構ってやる」
愛情もたっぷりな。
「うん。構ってね?」
「当たり前だ……麻理亜こそ、たまには俺の相手をしてくれよ?」
「たまに、でいいの?」
挑発的な麻理亜。
俺は、一旦足を止めると、こつんと麻理亜と額を合わせた。
「毎日、構って」
「うん」
至近距離で今にも唇が触れ合いそうなくらいの距離で笑いあう。
「パパ!ママ!」
すると、いつの間にか俺の手からすり抜けていた壱斗がバンバン車のドアを叩きながら俺達を呼ぶ。
「こら、車は叩くな」
俺達は、笑みを苦笑に変え、壱斗の待つ場所に歩き出した。
手を繋いだまま、愛しい我が子の元に。
―END―