天☆地戦争
『アダム…!』
イヴが背中からアダムを抱き締める。
『ゴメン…。アタシが、ちゃんと見てなかったから…。』
イヴは泣きそうな声で、小さくつぶやく。
…しかし、背後で密かにほくそ笑んでいた。
アダムは、力なく地に膝をついた。
愕然としてるアダムに、もはや誰の声も届かない。
《嗚呼…なんと嘆かしい…。これが我が創った人類なのか…。
こんなにも憎しみ、嫉妬、醜悪に満ちている…。》
イヴは、眉をひそめて顔をあげる。
『神様…?赤子は授けたよ!さぁ、早く幸せをちょうだい!!』
イヴは声高に叫んだ。
しかし、アダムの耳にはその声も届かない。
《おぉ…確かに子は戴いた。
だが、もはや、子孫にお前達のような罪に塗れた、愚かな人類を残し、子孫に繋げるわけにはいかん…。》
イヴの顔から笑みが消えた。
嫌な汗が頬をつたる。
『なんですって…?約束が違う!!』
天候がさらに悪化する。雷に加え、豪雨が降り、暴風が吹き荒れはじめた。
『お前との約束など、世界の均衡を保つためなら小さい埃にすぎん…。』
神の無残にも冷たい一言が天から下される。
イヴは怒りで体が震え上がった。
『お前なんか…お前なんか神じゃない!!お前こそ、悪魔だ!!』
《愚かな…。》
そして、大きな壁のような津波が楽園を襲いはじめた。
イヴは、アダムの腕を肩に回し、必死に丘を登りはじめた。
津波は容赦なく押し寄せてきた。
《安心しろ…。お前達が消えても、我が新しい人類を創ってやろう!
そう…お前から授かったこの御子をもとに!!
そして、名付けよう…。
この御子の名は…》
神の声が遥か遠くの天から響く。
津波の轟音で、よく聞こえない。
しかし、最後の声は耳に響いた。
《この御子名は“ノア”!!第二の人類の誕生だ!!》

アダムとイヴは、そのまま津波に飲み込まれていった…。 ―――
< 107 / 124 >

この作品をシェア

pagetop