ファイブベル
修二は煙を吐き出し、灰皿に煙草を押しつけると、けだるそうに回転椅子の背もたれを抱いて、答えた。
「本人がそう思ってるならそうなんだろ。適当に同意しとくのも優しさじゃん」
そう言うと、口元に笑みを作った。
「それってぜんぜん、優しさと違ってますよ」
呆れながらも、しっかりとツッコム祐介。
晋也は――小刻みに体を震わせると、大きく息を吸って立ち上がった。
「やっぱ、やっぱりあんたらにはわかんねーよ!ちくしょう…こんな学校やめてやる!」
言うが早いか、晋也は廊下に飛び出した。
「晋也くん!」
ご丁寧にも、激しくスライドされたドアが美弥の制しの声を打ち消した。
「俺、追いましょうか?」
祐介が卓也に問う。
卓也はうなずこうとしたが、横から聞こえたパーンという小気味よい打音がそれを拒んだ。
見れば、美弥が修二に平手をお見舞いした形。
「井上くんのこと見損なったわ!どうしてあんなこと言ったのよ!」
「先輩、ちょ……」
「祐介は黙ってて!」
美弥はもう一度、修二の顔を睨み直す。
「ひどいわよ、あんなに悩んで……あんなこと言ってるけど、あの子、誰かに自分の存在を認めてほしいのよ!あんただってちゃんと光の中にいるって言ってほしいのよ!それを――」
「やめろ。美弥、私情で翻弄されてるのはおまえの方だぞ」
卓也の声に、美弥は口をつぐんで、彼を見た。
その顔はどこか物悲しい。
「会長……」
二人はひたっと視線をかわした。
卓也の瞳は力強い。同時に、それがすべてを語っているかのようで、恐い。
あの時と同じだ、と思って美弥はうつむいた。
そんな自分を自嘲したい――でも、自分はあのころとは違う!思い直して、彼女は顔を上げた。
「私、晋也くんのこと追います!」
そう言うと、美弥は駆けた。
晋也のため、そして自分の過去に今度こそ決別するため。
彼女が出たあと、卓也は修二の頬を見た。
「修、大丈夫か?」
「ん、まあ」
修二は相変わらず飄々として、ほのかに赤い頬をさすっている。