ファイブベル

修二は煙を吐き出し、灰皿に煙草を押しつけると、けだるそうに回転椅子の背もたれを抱いて、答えた。

「本人がそう思ってるならそうなんだろ。適当に同意しとくのも優しさじゃん」

そう言うと、口元に笑みを作った。

「それってぜんぜん、優しさと違ってますよ」

呆れながらも、しっかりとツッコム祐介。
晋也は――小刻みに体を震わせると、大きく息を吸って立ち上がった。

「やっぱ、やっぱりあんたらにはわかんねーよ!ちくしょう…こんな学校やめてやる!」

言うが早いか、晋也は廊下に飛び出した。

「晋也くん!」

ご丁寧にも、激しくスライドされたドアが美弥の制しの声を打ち消した。

「俺、追いましょうか?」

祐介が卓也に問う。

卓也はうなずこうとしたが、横から聞こえたパーンという小気味よい打音がそれを拒んだ。
見れば、美弥が修二に平手をお見舞いした形。

「井上くんのこと見損なったわ!どうしてあんなこと言ったのよ!」
「先輩、ちょ……」
「祐介は黙ってて!」

美弥はもう一度、修二の顔を睨み直す。

「ひどいわよ、あんなに悩んで……あんなこと言ってるけど、あの子、誰かに自分の存在を認めてほしいのよ!あんただってちゃんと光の中にいるって言ってほしいのよ!それを――」

「やめろ。美弥、私情で翻弄されてるのはおまえの方だぞ」

卓也の声に、美弥は口をつぐんで、彼を見た。
その顔はどこか物悲しい。

「会長……」

二人はひたっと視線をかわした。
卓也の瞳は力強い。同時に、それがすべてを語っているかのようで、恐い。
あの時と同じだ、と思って美弥はうつむいた。
そんな自分を自嘲したい――でも、自分はあのころとは違う!思い直して、彼女は顔を上げた。
「私、晋也くんのこと追います!」
そう言うと、美弥は駆けた。
晋也のため、そして自分の過去に今度こそ決別するため。
彼女が出たあと、卓也は修二の頬を見た。

「修、大丈夫か?」
「ん、まあ」

修二は相変わらず飄々として、ほのかに赤い頬をさすっている。

< 11 / 12 >

この作品をシェア

pagetop