ファイブベル
慣れた窓枠に頬杖をつき、外の景色を眺めながら、小池美弥は何に見とれるわけでもなく、ぼーっとしていた。
運動部の声が高らかに響き、風に乗って吹奏楽部の演奏が流れてくる。
春ももう終わりに差し掛かった。
日差しは強い。
五月病の感を匂わせないまま、もう夏に突入するだろうという勢いである。
――日本には梅雨ってやつがあるんだけどな……
揚々としたお天と様に悪態をつきながら、美弥はやんわりとけだるく、そう思った。
日本の風物詩、隠れたもう一つの季節があやふやなことが、どうも気に入らないらしい。
自分でも――妙なことにこだわるなぁ――と思う。しかし、気になるものは気になる。さらに思い直して、美弥は申し訳程度、顔色を曇らせた。
その鼻先にきつい匂いの煙が横切る。
「井上く~ん。あんまり吸いすぎると、職員室まで煙りいくよ」
振り向きもせず、どうでもよさそうなていで美弥は言った。
返事はない。
言われた男子生徒は、部屋の隅で配線まみれになった机の上に置かれたパソコンのディスプレイに釘づけで、くわえた煙草を放しそうにない。
無視――
というわけではない。
この男、井上修二は、一端、物事に集中するとまわりの音を一切受け付けなくなる――ただ、それだけのことだった。
それを察して、美弥はただ、一つため息をついた。
修二は『いのっち専用』とマジックで書かれた灰皿へ煙草を押しつけ、二本目に火を点けた。
もう一人、この部屋に人はいる。
のだが、おそらく彼は二人のやりとりを気にも止めていないだろう。
生徒会室の中央に設置されたテーブルから離れた入り口付近の机に向かい、悠々と新聞を読みふけている。
中央のテーブル――窓際部、入り口向かいに座した美弥は頬杖ついたまま、もうひとつため息をついた。
ちょうどその時。
勢いよくドアが開く音がした。
「すいまっせん!遅くなりましたぁ」
金髪――松崎祐介はぬけるような笑顔でそう言うと、持っていたいかにも重量のある荷物をどかりとテーブルに置いた。
「本当っおっそいわよ!」
美弥は立ち上がっていきまいた。
運動部の声が高らかに響き、風に乗って吹奏楽部の演奏が流れてくる。
春ももう終わりに差し掛かった。
日差しは強い。
五月病の感を匂わせないまま、もう夏に突入するだろうという勢いである。
――日本には梅雨ってやつがあるんだけどな……
揚々としたお天と様に悪態をつきながら、美弥はやんわりとけだるく、そう思った。
日本の風物詩、隠れたもう一つの季節があやふやなことが、どうも気に入らないらしい。
自分でも――妙なことにこだわるなぁ――と思う。しかし、気になるものは気になる。さらに思い直して、美弥は申し訳程度、顔色を曇らせた。
その鼻先にきつい匂いの煙が横切る。
「井上く~ん。あんまり吸いすぎると、職員室まで煙りいくよ」
振り向きもせず、どうでもよさそうなていで美弥は言った。
返事はない。
言われた男子生徒は、部屋の隅で配線まみれになった机の上に置かれたパソコンのディスプレイに釘づけで、くわえた煙草を放しそうにない。
無視――
というわけではない。
この男、井上修二は、一端、物事に集中するとまわりの音を一切受け付けなくなる――ただ、それだけのことだった。
それを察して、美弥はただ、一つため息をついた。
修二は『いのっち専用』とマジックで書かれた灰皿へ煙草を押しつけ、二本目に火を点けた。
もう一人、この部屋に人はいる。
のだが、おそらく彼は二人のやりとりを気にも止めていないだろう。
生徒会室の中央に設置されたテーブルから離れた入り口付近の机に向かい、悠々と新聞を読みふけている。
中央のテーブル――窓際部、入り口向かいに座した美弥は頬杖ついたまま、もうひとつため息をついた。
ちょうどその時。
勢いよくドアが開く音がした。
「すいまっせん!遅くなりましたぁ」
金髪――松崎祐介はぬけるような笑顔でそう言うと、持っていたいかにも重量のある荷物をどかりとテーブルに置いた。
「本当っおっそいわよ!」
美弥は立ち上がっていきまいた。