ファイブベル
祐介は臆する事無く、

「まあまあ小池先輩、そんな目くじらたてなくても……あ、卓さん。聞きましたよ。昨日賭場でまた一人勝だったんスね。おっさん感心するやら悔しいやらであの後、収集つかなかったッスヨ」

と、美弥をほっといて、新聞読みの背中に語りかけている。

生徒会長、斎藤卓也は丁度、新聞を読み終えたのか、新聞を綺麗に畳んで机の上に置くと、回転椅子をくるりと回した。
そして、祐介の顔を見やった。

「立辰組には毎度世話になってるが、博打となれば話は別だからな」

「仲介した俺の立場も考えてくださいよ~」

落ち着いた口調で言う卓也に対して、祐介は情けない声を出した。
しかし、どこか事の顛末を楽しんでいる節がある。

「ちょっと!そういう話題は学校の外でしてよね!」

収まり切らない剣幕で、美弥が割り込む。
時間にうるさいタチだ。
待たされたことによほどご立腹だったらしい。

「会長も、話にノらないでください!」

「ああ」

美弥の剣幕に流石の卓也も、苦笑いを浮かべて、こめかみに汗浮かばせた。
気まずい状況から逃れたくて、卓也は二の句をつぐ。

「そういえば、祐。伶奈はどうした?」

「あーあいつなら、さっきまたそこで、告られてたっスよ」


「なにーーー!!!」


後輩の答えに、美弥は絶叫した。

「三男坊!なんで止めなかったのよ!」

「三男坊はよしてください!あいつなら大丈夫だって」

「ばーか!伶奈ちゃんはあんなに可憐でか弱いのよ!どこの馬ともしれん男に絡まれてたなんて、言語道断よ!!!」

「そこまで言う……」

背後に打波でも背負っているかという調子で断言する美弥、呆れる卓也。
そして、異論を唱える祐介。

「っていうか、先輩ぜってー勘違いしてるって!あの女元ヤン………」

「なにかいいまして?」

「うわっ!」

突如、背後からねっとりとした女の声が聞こえ、祐介は短い叫びを上げてのけ反った。

「伶奈てめいつの間に……」

「裕ちゃん。なにかわたくしのことでありまして?」

言った口調は柔らかいが、祐介にははっきりと工藤伶奈の額に青筋が見えた。

――この似非(エセ)お嬢が……

内心、毒づいても声にはならない。


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