ファイブベル
「伶奈ちゃんvvv無事だったのね!」

「美弥お姉さま!」

引きつる祐介を尻目に、美弥の声を聞いて、伶奈は駈けた。
伶奈はひたりと美弥に抱きつく。
可愛い後輩にひっつかれて美弥は至福のときに浸る。

室内が筆舌に尽くしがたい気色に覆われたその時、再びドアが開いた。

「おお、ちょうど五人いるな」

歓喜というには些かけだるい声が聞こえて、戸は閉まった。
声の主はその場につったったまま、寝癖プラス癖っ毛の頭を軽く振った。
顔の作りはさして悪くないのだが、寝呆けたような腫れぼったい目蓋が数ランクも彼を落としめている。
それが、独身男の最前線とでも言いたげなよれた背広に身を包んでいるのだから、なおさらだ。
生徒会顧問、佐奈山直樹はA4サイズの薄いクリアファイルを片手にもっていた。

一同、なにやら嫌な予感がする。

「佐奈山顧問、なにか雑務でもありましたか?」

「まあ、ちょっとな」

顧問は卓也の問いに曖昧な返事を返す。

「やっかい事はごめんっスよ」

まともに嫌な顔をした祐介に、顧問は苦笑で応え、卓也にファイルを渡した。

「“東晋也”……」

いつのまにか、卓也の背後に立っていた修二は、踊るようにして書かれた名前を読みあげた。

ちょうど換気扇の下に位置されたパソコンスペースには、すでに煙の影はなかった。
灰皿も消えている。

顧問はそれを知ってか知らずか、そのことはまったく意に介さず、ため息混じりにうなづいた。

「ああ、そいつね、今回の雑務。件の問題児ってやつでさ。まあ、ありがちなんだけどな、今流行(ハヤリ)の保健室登校ってやつだよ、つまりは」

――いや、ハヤってないし。少し古くね?

というツッコミは各自、胸の中に押さえ込んだ。

書類に一通り目を通すと、卓也は、修二が読んだことを確信して、美弥にファイルを渡した。祐介と伶奈もそれを覗き込む。

書類には男子生徒の顔写真と、名前、学年、家族構成などいくつかの個人情報が書き記されていたが、特に目にとまるようなことはかかれていなかった。ただ、最後に付け足すように、筆記体で「problem student(問題児)」と添えてあった。


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