ファイブベル
――露骨ぅぅぅ。それにこれって問題児って読むの?ていうか、こりゃ、個人情報保護法にひっかかるんじゃ…

美弥はそう思って苦笑した。

外部の目に触れれば、PTA格好の餌食になりかねない記述アンド行動だ。

しかしなにより、美弥は貼りつけられた証明写真を見やった。

他の二人はすでに飽きてしまったのか、書類から目を離していたが、美弥はじっと、手にした書類――写真、薄曇った彼の瞳を見ていた。


暗さではない。

不満の色が濃く、憤りさえ感じさせる。

そして、どこかで見た、挑むような表情でもある。


「閉鎖的な割に口が達者で……こっちは持て余しててな――入ってきたばかり一年にやめてもらうわけにはいかんしなあ」

「そりゃ、そっちの了見だろ」

佐奈山顧問がたどたどしい口調で話すのに対し、祐介は不機嫌を助長するよう、ご丁寧にも眉間にしわを寄せて、一蹴した。

何分、普段はお調子者のパシリ。言い換えるなら、そこいらのチンピラ(私語)を彷彿させる祐介ではあったが、こういった表情をすれば、ひとかどの侠客の息子に違いないという凄味がある。

彼の父親を知るものならば、彼の中にその似姿を垣間見ることもあるだろう。
しかし、それは祐介の前では禁句(タブー)である。

「親の衣に縁(ユカリ)なし」
と言いいおうせる彼を気遣って、大概の者は口を紡ぐ。

この場合、顧問がそれを知る由はなかったが、些か、身の縮まる思いをして、

「おまえの言いたいこともわかるがなぁ……」

と、また口滑り悪く答えて、語尾を濁した。

「先生方がもてあましてる生徒を、俺等で更正させられますかねえ」

口籠もる顧問を横目に、修二は口の端に不適な笑みを浮かべた。

その表情の意味を察して、顧問は苦笑する。

「井上、顔とセリフがあっとらんぞ」

井上修二という男を理解すれば、誰もが漏らしえる苦笑だった。

この男、口調、素振りはわりと丁寧ではあるが、生徒会室で堂々と煙草をふかす神経の図太さを持ち、加えて、人事の問題など朝飯前といった感の体たらく。
人を食ったような男だ。

自信過剰にも程があるとは思いきや、こと、この異常なる自信――この男だけとは言えない。


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