ももか

ドキドキ

心臓がドクドク鳴ったまま治まらなかった。

ももかは地下鉄の入り口の木製のエスカレーター手前で座り込み、誰もいないのを確認して深呼吸をした。

確かに髪を引っ張られ、頬を撫でられた…。
ヨシカズもおろか、近くには誰もいない。

気のせい?
そんなはずない──。
確かに誰かに引っ張られた。

ももかはゆっくり立ち上がり、今日は帰ろうとしたその時、後ろから足音がした。
振り向くと顔がはっきり見えないくらいの距離に黒いダウンジャケットに藍色のくたびれたジーンズ。

髪型は前髪も襟足も長く、目が少し隠れていたがきれいな黒髪のだった。

ももかはわかっていた。

あれはヨシカズだ。

顔がはっきり見えるまで距離も近づいた。

やはりヨシカズだ。

向こうもももかに気づいているみたいだった。

どうしよう…


ももかはその場を立ち去った。ホームステイ先の家に。
胸がドキドキしてきたのだ。
怖いんじゃない。

ドキドキを気づかれたくない…。


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