Dear...
部屋の窓際に置かれたフォトフレーム。

無邪気に笑い、顔を寄せピースサインの男女。

まだ若い二人。

晴天の朝だった。

新しく買ったスーツに身を包み、鏡の前で身支度する知子が居た。

「よし!大丈夫!」

フォトフレームを手にした。

「どう?似合ってる?」

写真に話し掛ける。

言葉が返って来ないのは当たり前だった。

「見せたかったな…直人に…。」

フォトフレームを置き、部屋を後にしようとした。

立ち止まり、振り返る知子。

一瞬、微笑んだ。

「行ってくるね…。」

写真の直人は笑っている。

階段を下りて玄関に向かう。

母が見送る。

「知子。忘れ物無いの?」

「うん。大丈夫!行ってくるね!」

出勤まで、まだ時間があった父も出てきた。

「いよいよだな。社会人一年生(笑)」

「うん(笑)行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

家を後にする知子。

「もう、大丈夫なんじゃないのか?」

父が母に声を掛けた。

「えぇ…一時は、どうなるかと思いましたよ…。」

二人は、幼少期の知子の後ろ姿と思い出した。
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