ダチュラな私。
キモチワルイ。
その言葉だけが頭の中を埋めていく。
……いつも助けてくれる聖羅はこの状況に気付いていない。
歌に夢中になっているし、ステージ上からは私の体が壁となって見えていないはずだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
どれだけ必死に考えてもこんなぐちゃぐちゃになった頭ではなにも思いつかなくて。
そんなことを考えている間に握る力が強くなっている手と、詰められた距離。
ああ、もう、嫌だ。
そう、なにかが切れる寸前に。
「お前そろそろバイトの時間じゃねえの?」
そんな声が聞こえた。
その声を辿るように振り向くと。
テーブルを挟んだ向かい側のソファに座る、もう一人の名前も知らない男が。
こちらに視線を向けることなく、ただ歌本をめくっていた。