ダチュラな私。

「あっ、本当だ。俺そろそろ行くわ」

そう言うと同時に離された手。

おさまっていく吐き気に安堵しながら、ふと向かい側のソファに座る人を見ると。

その人は歌本をめくっていた手をとめて、強制的に繋がれていた手にその視線を落としていた。


もしかして……見られてた?


その視線にそんな考えが浮かぶ。

もし見られていたなら、口止めしなきゃ。

この人も同じ学校らしいし、もし誰かにこのことを話されたら面倒なことになる。

だけど見られていたのか、いないのかなんてわからないし。

もし見られていないのに余計なことを言ってしまえば、墓穴を掘ることになる。


「またね、花ちゃん」

「あっ、うん。バイト頑張ってね」

私がそんなふうに頭を悩ませていると、男は立ち上がりそう笑顔を見せた。

私もそれに合わせて笑顔で手をふる。

“またね”は二度とないだろう。

そう、思いながら。
< 13 / 342 >

この作品をシェア

pagetop