ダチュラな私。

だけど一成は虎の声なんか聞こえていないように、どんどん歩いていってしまう。

この距離なら虎の声が聞こえないはずはないのに……やっぱり体調が悪いのかな?

「あいつはほんましゃあない奴やわ」

すると突然、虎はわざとらしく大きなため息をついた。


確か“しゃあない”って、標準語で言う仕方がないって意味だよね。

一成のなにが仕方ないんだろう?


「じゃあ花また今度な。
近いうちにデートしよなあ」

そう聞きたかったのに虎は早口にそう言うと、一成を追いかけていってしまった。

一成が競歩並のスピードだとしても、走っている虎が追いつけないはずもなく。

すぐに追い付いた虎は、勢いよく一成の背中に抱き着いた。


その姿はまるで兄弟のようで。

私は自分が考えていたことなんてどうでもよくなって、微笑ましい気持ちになりながら、二人が見えなくなるまで見送っていた。
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