ダチュラな私。

驚いて頬と首筋に伝うものを拭うと、髪も濡れていることに気付く。

と、いうより髪が濡れているのだ。

水分は髪を伝い、さらには背中までも濡らしていく。


なぜ濡れているのかわからなくて、髪を触りながら視線をあちこちに泳がせる。

テーブルの上、さっきまで座っていたソファ、ステージの上でマイクを持ったまま呆然としている聖羅と爽吾君。

だけど、どれも私の髪が濡れている理由を教えてはくれなくて。

それを何度か繰り返していくうちに、ふと、男の右手が視界に映った。


そこに握られているものは空のグラスで。

しばらくそこで視線を止めて少し考える。

嫌な考えが頭を過ぎる。

でも、まさか……と思いながらゆっくりと顔を上げ、真正面に立つ男を見ると。

その表情は、歪んでいた。
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