ダチュラな私。

「花のために買ってんからいいに決まってるやろ。似合ってるで」

だけど虎は私の“一応”に気を悪くすることなくニカッと笑ってくれて、そう言いながら飽きもせずに私の耳に触れてくる。


私の視界には虎しか映っていないけれど、同じくエレベーターを待っている人の視線を痛いほど感じた。

私達の関係は、間違いなく誤解されているだろう。

今すぐ逃げ出したいほど恥ずかしいけれど、満足げな虎を見ているとそうすることも出来なかった。


それに私には逃げ出すより先に、虎に言わなければならないことがあった。

私は出来る限り意識を虎にだけ集中させて、周りの視線を気にしないようにする。

そして、満足げな虎を見つめながら。


「ありがとう」

はっきりと、虎にだけ聞こえるようにそう伝えた。

すると虎は笑みを深くして、耳に触れていた手で頭を優しく撫でてくれた。
< 219 / 342 >

この作品をシェア

pagetop