ダチュラな私。

願いごと



私はこの男の顔なんて見たことがない。
声を聞いたこともない。

それでも私がこの男が元凶だと悟ったのは、“視線”を記憶していたからだ。

あの頃、いつも怯えていたこの視線だけは忘れたくても忘れられない。


だけど、なんで?
なんで今さら私の前に現れたの?

目の前の男は口元を歪めながら、粘っこい視線を私に向けてくる。

その視線が、その歪んだ口元が、この男の全てが私の恐怖を大きくしていく。

体の震えはとまらない。


「どうしたの?なんで泣いてるの?」

男はさも不思議そうな顔でそう言う。

私はその言葉を聞いて初めて、自分が泣いていることに気が付いた。


泣いている理由なんて一つしかない。

だけどその理由を叫んでやりたくても、口を塞がれているからなにも出来なくて。

私は震える両手で、拳を握ることしか出来なかった。
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