ダチュラな私。

一歩目を踏み出した瞬間、足が痛んだ。
二歩目を踏み出した瞬間、手が痛んだ。
三歩目を踏み出した瞬間、頬が痛んだ。

それを何度か繰り返し、全身が痛みを訴え始めたとき。

私は拳を握り締めて、男の前に立った。


男は倒れたまま薄目を開けて私を見るとにやりと笑い、のそりと立ち上がった。

気持ち悪い。逃げ出したい。そういう気持ちを抑えて目の前の男を、ギッと睨み付ける。

だけど男はそれすらも嬉しいというように、口角をあげて笑っていた。


早く、殴らなきゃ。

そう頭ではわかっていても震えている体は言うことを聞いてくれなくて、気持ちばかりが焦ってしまう。

冷静に、と言い聞かせれば言い聞かせるほど体は震えていって、握り締めていた拳がだんだんと開いていく。

だけど、なにもしない私に気をよくしたのか男の汚い手が私に伸びてきた瞬間。


負けたくない。


私はその一心で、男の顔に向かって拳を振るった。
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