ダチュラな私。
虎の手はまだ私の耳元で遊んでいる。
少しひんやりとした手に触れられているというのに、耳元が熱くなっていく。
だんだんと熱くなっていることは、虎も気付いているだろう。
事実、クスクスと笑う虎の小さな声が私まで聞こえてきている。
……私達、昼間の住宅街でなにをしているんだろう?
人通りがないことがせめてもの救いだな、と考えながら。
秋の香りを漂わせ始めた風に吹かれながら、私は虎が手を退けてくれるまで俯くことしか出来なかった。
「……なあ、花?」
しばらくそうしていると耳元で遊んでいた手はゆっくりと離れていき、それと同時に、ぽつん、と落とされた私の名前。
その声は聞いたことがないくらい大人びていて、本当に虎から発せられたものなのかと驚いて顔を上げる。
そこにあったものは、とても真剣な漆黒の瞳だった。