ダチュラな私。

ボストンバッグから虎へと視線を移すと、そこにはこないだと同じ真剣な瞳がある。

私は一度深呼吸したあと、虎と向き合うように体の向きをかえた。


秋の風が虎と私の髪を揺らす。

揺れる髪の隙間からピアスが見えているのか、私の耳元に視線を感じた。


そんな虎を見ていると、どうしても俯きたくなってくる。

でも、だからこそ。
俯いてはいけないのだ。

私は虎を見つめたまま大きく口を開いた。


「ごめんなさい。
私、虎とは付き合えない」


口を大きく開いたのにその声はとても小さくて、虎の耳に届いたのか不安になる。

だけど大きく目を見開いた虎の表情が、届いたことを証明してくれていた。
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