ダチュラな私。
そんな私を見て苦笑したあと、虎はちらりと自分の腕時計を見る。
「じゃあそろそろ行くわ」
そしてまるで一成の家に帰るような、いつもの軽い挨拶が聞こえてきた。
私は笑みを潜めてこくりと頷く。
前々から虎は見送りはいらないと言っていたから、ここでお別れだ。
わかっていたけれど、やっぱり寂しい。
そう思いながら虎を見つめていると、だんだんと虎の顔が近付いてきた。
その顔は笑ってなんかいなくて。
かといって真剣というふうでもなくて。
とにかく、何を考えているのか読めないものだった。
だけど、その漆黒の瞳には。
表情なんて不必要に思えるほど、たくさんの感情が浮かんでいた。
それが理由、というわけではないけれど、私には顔を背けるなんて選択肢はなくて。
気が付けば、距離が縮まる速度に合わせて、ゆっくりと目を閉じていた。