ダチュラな私。

“アイツ”の手が退かされて、かわりに私に触れたものは細く柔らかい手だった。

それにほんの少し安堵したけれど、呼吸はもとに戻らない。

ただただ苦しくて、私に触れている柔らかい手をぎゅっと握りしめた。


「爽吾、紙袋!!」

「えっ?紙袋?」

「いいから早くそれよこしなさいよ!」

すぐ耳元で交わされているそんな会話。

次の瞬間には私の口元に何かが当てられた。


「大丈夫。大丈夫だからゆっくり息してみて。少しずつでいいからね」

私を落ち着かせるように耳元で囁かれたその声は、まるで歌のようにゆっくりと優しく心に落ちていく。

その言葉に従って私はゆっくりと少しずつ、正常な呼吸を思い出していった。
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