【実話】アタシの値段~a period~
『月…見えないね。』
浩介の隣に立って
空を見上げても
雨の夜空に月は無く。
ただそこには
どこまでも果てしない闇。
なんだか今日は妙に無口な横顔を見上げると
いつかの浩介の言葉を思い出した。
"いつか、満ち欠けを繰り返して綺麗な丸になるんだ"
『…無くなっちゃうって結末もあるのかな。』
小さく呟くと
自分が発した言葉に、堪えていた涙が頬を伝った。
「そんなに辛いなら、もうやめとけば?」
…そんな簡単に言わないで。
『無理だよ。アタシに、隆志の居ない毎日なんて。』
「お前あいつと居ても…幸せにはなれねぇぞ?」
…やっぱり今日の浩介は変だ。
いつもと違う。
『…そんなことないよ。アタシを幸せにできるのは隆志だけだよ。』
隆志以外の誰かの優しさも、愛情も
きっとアタシには響かない。
そういう意味で
アタシを幸せにできるのは隆志だけなんだと思う。
『だけどさぁ、逆を言えば…アタシを不幸にできるのも隆志だけって事だよね…。』
そう言って煙草に火を点けた。
隆志の匂いが空中を舞う。
「お前、煙草変えた?」
隆志君の匂いがする、と付け加えた浩介が
珈琲を口に含んで
ゴクリと喉を鳴らした。