【実話】アタシの値段~a period~
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『隆志には他に、好きな人がいる』
泣きながら そんな電話がかかってきたのは
あの夜だった。
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オフィスのブラインドを開けると
星も、月もない夜空が視界に広がった。
持っていた煙草を灰皿に押し付け
一つため息をこぼす。
時計の針は
22時を示していたが
明日の午前中までに仕上げなければならない仕事が
パソコン画面の中で俺を待っている。
ほとんどの照明を落としたフロア。
社員達には先ほど
先に帰れと指示をした。
長時間向き合っていたパソコンの光が目の奥に染みる。
眼鏡をはずして目を閉じ、目頭を押さえる。
帰り際に、事務の女の子が入れてくれた珈琲を口に含むと
すっかり冷めていた。
デスクにカップを置いて
俺はボーっと、その揺れる水面を見つめて思う。
ユキも今頃、隆志君と珈琲でも飲んでいるのだろうか。
俺はここしばらく
ユキのことを避けていた。
いや、、逃げていた。
そう言った方が正解だろうか。
事業を少しだけ拡大するにあたって
俺はこの街を離れなければいけない。
そんな話しが少しずつまとまると同時に
自分の感情のやり場をどこに向ければいいのかも分からなかった。
ユキが一番幸せなのは…?
そう考えれば、それは間違いなく隆志君の傍にいることで。
このタイミングは
ちょうどよかったのかも知れない。
気づいた頃にはもう後になんて引けないほど
俺はユキを好きになりすぎたんだ。