【実話】アタシの値段~a period~
再び眼鏡をかけ直し
パソコンの画面に向き合ったのもつかの間
デスクの端に置いてあった携帯のバイブが
静かなオフィスに鳴り響いた。
―――着信中―――
ユキ―――
「おう、どうした?」
そう言いながら、泣いていることに気づいて。
『どうもしないんだけどさ…』
そんなはずないと分かっていながら。
「なんだよ、まーたケンカでもしたー?」
できるだけ軽く。
ユキがちゃんと話し出せるように。
『なんかね…隆志、他にも好きな人がいるみたい。』
あはは、と力なく笑ってみせるユキの声が
すこしずつ、遠ざかるような感覚。
ズキズキと頭が痛むのは
度の合わない眼鏡のせいだろうか。
それとも
決して抑えられそうにない
この怒りのせいだろうか。
今から行く、と告げ
ユキの電話を切った俺は
迷うことなく、携帯のメモリから
アイツの名前を探した。
腹の奥が、スーっと冷たくなっていくのを感じながら。
″タカシ君″
自ら打ち込んで登録したその名前の軽さにさえ腹が立つ。
隠し通せ、いつかアイツに言った言葉を思い返す。
嘘が吐けないなら
いっそのこと
傷つける前に
消えろ。
呼び出し音を耳に受けながら
そう思った。