【実話】アタシの値段~a period~
″ユキは俺がもらう″
そんなこと、言うつもりじゃなかった。
じゃあ、何を言おうとして電話をかけたのか、
それすら、よく分からない。
感情のままに、怒りをぶつけてしまったことを後悔した。
ユキが俺に対して、恋愛感情がないことは分かっていたし、
だからこそ、俺がユキを幸せにできるとも思えない。
アイツの保守的な性格上
傷つけないでくれ、と
土下座の一つでもして見せたほうが
よほど効果的だったかもしれない。
感情で動くと
ろくなことが起こらない。
そんなことを考えていると
自分はいつからこんなに
寂しい人間になったのか、と
ふと、思う。
例えば、隆志くんが
全てを打ち明けることと
このまま、ユキの目の前からいなくなることと
どちらがユキにとっては深い傷になるのだろうか。
それは必ずしも
前者には限らないのかもしれない。
″アタシを幸せにできるのは隆志だけだよ″
″だけどさぁ、逆を言えば…
アタシを不幸にできるのも隆志だけってことだよね…″
大きな瞳に涙をためる
ユキの横顔を見て、あの夜そう思った。
だから、伝えようと決意して向かったユキの部屋。
はっきりとは言えなくなったんだ。
俺はお前が好きだ、と。
それは、勝敗の決まった勝負に出ることができなかったわけじゃなく
アイツがなにかアクションを起こしたとき、
ユキがこの上なく辛い夜に、
俺がいなくなれば
ユキは 独りになってしまう。
自分を好きな男に泣きつけるような
ユキは、そんな器用な性格じゃない。
そんなことに気づいてしまったから。