【実話】アタシの値段~a period~




ユキの部屋を出て

駐輪場の壁にもたれた。



背中へ伝わる冷たさに
急かされるようについた深いため息の向こう


その先で、立ちつくす男が一人
何か言いたげな目でこちらを見ていることに気づいた。




嫌悪感を吐き出すように、もう一度深く息を吐いて


ペースを取り戻そうと、ワイシャツの胸ポケットに手を伸ばす。



いつもそこにあるはずの煙草がないことに気づき

同時に、俺を見送るユキの顔を思い出す。




困ったように眉を下げて微笑む顔が

忘れられない。




ユキが俺の言葉の意味を解ってしまったのだと

その態度に気づいた後


おどけて、誤魔化そうとしたが


もう遅かった。




いつもなら、忘れ物だよ、と
手渡されるテーブルの上の煙草にさえ気づかないほど

ユキは動揺していた。




それは、悲しそう、とも
とれるような表情で。







いつの間に、すぐそこまで来ていたのか、


ぼーっとしていたから気づかなかった。




突然、スッと目の前に差し出された煙草。



その持ち主は


俺の目を見るわけでもなく。





「あぁ、悪いな」




そう言って受け取り火をつけると


煙の香りにまた

自己嫌悪。





ユキの部屋に漂うものと

同じ香りは



自分から、冷静さを奪いそうで



すぐに火種を靴の底で消した。





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