【実話】アタシの値段~a period~
「俺の女に手をだすな、とか言いたい?」
わざとらしく笑って
顔を覗き込むと
「…いや」
と、弱りきった返事が返ってきた。
おそらく、言っても信じてもらえないとは思うが
俺はこいつが嫌いではない。
自分でも もうどうすればいいのか分からない、
とでも言いたげな表情、
今にも泣きついてきそうな目でこちらを見ている。
こんな状況下でも。
男として、となると話しは別だが
対、人として
もっと別の出会い方をしていれば
かわいい弟分として 話しを聞いてやれたに違いない。
脳裏に焼き付くユキの涙をふと思い出し
「ユキはお前と出会って、よく泣くようになったよ。」
そう呟いた俺の耳に
微かにだけ届いた返答は
「…俺のせいだな…」
変わらず弱気で。
「あぁ、お前のせいだな。」
そうは言ったけど、
正直、俺はそれが悪いことだとは思っていない。
泣く、ということは
悲しい、ということと
向き合うことだから
ユキにはそれが必要だった。
こいつと出会う前のユキは
悲しい、ということを拒否して
゛どうでもいい゛と、自分を守っていた。
だから泣かなかった。
だから、笑うこともなかった。
だから…俺はこいつが嫌いではない。
こいつがどんな残酷な嘘つきでも
ユキを救ってくれた事実にだけは
感謝さえしていた。
「本当に…ユキの傍に居るべきなのは…」
独り言のように呟く声は
やはり、男としてはこの上なく情けない。
「…俺って?」
冷静さを保つため、
隆志くんのを表情を見ずに
空を見上げて答えた。