【実話】アタシの値段~a period~
夜が終わりに近づいている。
霞んだ空は、変わらず何も映さずに。
月も星も全てを隠して。
なぜだろう。
それは、とても
大切なものを必死に隠して
守っているかのように見えた。
ボーッと空を見上げる俺につられて
隆志君が視線を同じ方向へ向けていた。
「星がみえねぇな」
ボソリと呟くと
「なんか、悲しそうな空だ‥な‥」
躊躇混じりに
隆志君が答えた。
「空ってさ、見上げた人間の心を映すんだってな」
そんなロマンチストな台詞を
男に向かって吐くなんて
俺もいよいよ
焼きが回っている。
けれど昔、誰かに聞いたそんな話しが
あながち間違ってはいないかも知れないと
頼りなく、弱りきった男の横顔を見ながら思った。
″悲しそうな空だな″
「お前の方がよっぽど悲しそうだけどな」
捨て台詞のように言って
俺はその日
その場を去った。
その後、隆志君がユキの部屋に行ったのかは分からない。
ユキのアパートまで来たからには
おそらく、そうであろう。
そしてユキはまた
泣いて
怒って
傷ついても
彼を許すのだろう。
そしたら
また明日からは
笑えるのだろうから
それならもう
それでいい。
それが一番いいのだと、
先のことなど考えずに
せめて少しでも長い間
今は笑っていてくれ、と
もう一度、空を見上げて思った。
頭上高く
寂しそうな闇を見上げて願った。