【実話】アタシの値段~a period~
翌日も
さらにそのまた翌日も
ユキは何かに理由をつけて
俺の部屋にはやってこなかった。
だけど、電話をかければ出ていたし、
普段と同じような会話を交わしていたから
余計に不思議だった。
俺は今日もさっさと仕事を切り上げて
家路に着いた。
毎日残業を断れるだけ断って。
あれから一週間ほど経っただろうか。
帰り際、エレベーターに乗る寸前
トオルに呼び止められたが、
軽くかわして、地下1階のボタンを連打した。
今日も車に乗ると同時に
ユキの携帯のコールを鳴らす。
鳴り止まない呼び出し音を耳に受けながら
一つため息を零し
エンジンをかける。
湿った地下駐車場に鳴り響く
低音のエンジン音にけしかけられるように
車を出した俺は
家の近くで食材を買って部屋に帰った。
夏のぬるい空気に晒された玄関のドアノブを握ると
それだけで気が滅入る。
着信の返らない携帯を開いて
パチンとそれを閉じると同時に
思わず、笑みが零れてしまった。
あたかも微笑んでいるかの様に俺を見上げていたのは
玄関で丁寧に揃えられた白い小さな靴。
まるで、しつけの悪い子供の様に革の靴を脱ぎ捨てて
バタバタとリビングの方へ駆け寄ると
『おかえり。』
と、小さく吹き出しながらクスクス笑うユキが
ちょこんとソファに座っていた。