【実話】アタシの値段~a period~
「ただいまっ。」
舞い上がる俺を見透かすように
『おどろいた?』
いたずら好きの子供のように
無邪気に笑ったユキは
早かったね、と俺の腕に絡みついた。
「あぁ、そういえば
さっき、電話したんだけど。」
ネクタイを緩めながら
反対の手でユキの髪を撫でた。
『ほんと?マナーモードのままだったからきづかなかった。』
尚、俺の腕に絡まったままのユキは
ごめんね、と
上目で俺を見上げる。
その可愛さに
すかさず唇を落とそうとした俺の腕の中を
スルリ抜けて
『お腹すいたー隆志ー。』
と、上機嫌に彼女は すねた振りをした。
振り回されている。
だけど今が 幸福の絶頂のようにさえ思えてくる。
「お前は鼻が利くな。」
と、スーパーの袋を掲げると
『犬みたいでかわいいでしょ。』
と、まるでほんとに上等な子犬のように
茶色がかった 綺麗な瞳を輝かせて笑った。
急かされるまま
部屋着に着替えてキッチンに立つ。
ここ数日間の不安が全て吹っ飛ぶほど
何もなかったように
穏やかな時間だった。
穏やかすぎて
そんな空間に酔っていたのか
それがとても
不自然なことだと
ほんの少し考えれば分かっていただろうに─‥。