【実話】アタシの値段~a period~
『今日も星が見えないね。』
灯りを落としたままの部屋。
下着姿のまま、窓辺に立つユキに
「そんな格好で窓に近づくなよ。」
なんて笑いながら、
けっこう本気だった俺は
彼女を後ろから包み込むように
細い肩にシャツをかけて抱きしめた。
空を見上げたまま、
ふふっと、囁くようにユキは笑った。
「お前って、ほんと星好きだよね。」
ユキの視線の先を辿ると
そこは ただ、ひたすらに闇。
こんな幸せに満ちた夜くらい
満点の星空だっていいものなのに。
『ねぇ、隆志。』
「ん?」
何もない空を見上げたままに。
『愛してるよ。』
少し、声を詰まらせて。
「うん、愛してる。」
その時、俺は
きっと心の底から
思い、密かに願った。
ずっとこのまま
何も知らずに
俺の腕の中にいてくれ、と。
星もない夜空に
必死になって願った。
″空ってさ、見上げた人間の
心を映すんだってな″
あの夜
君はあの
何もない夜空に
何を見たのだろう。
願ったのだろう。
誓ったのだろう。
それは、
今になっても分からない。