【実話】アタシの値段~a period~








『ちょっと寄って欲しい場所があるの。』



まぁ、なんとなく

それがどこかは

分かっていた。





なんら、いつもと変わらない様子で


俺を出迎えたユキの左手に



綺麗でいてそして少し
悲しい事を連想させるような種類の花束が


そっと、握った紙袋から


顔を覗かせていたから。






「どこでも連れてってやるよ。」



と笑ってみせると




口角だけを上げたユキが


『そうだなぁー、じゃあ、ハワイ!!』


と、はしゃいだ。






このアパートの通路からは


夕日がよく見える。






もう来ることのない

空っぽになった部屋のドアを閉め、


カチャカチャと鍵をかけるユキの肩が





なぜだろう。



夕日に溶けてしまいそうで。





無意識に伸びた俺の手は


ユキの髪に触れる寸前、




″イケナイ″


そんな
もう一人の自分の声で


引き戻された。







触れてはいけない。




ユキの居場所を奪ってはいけない。




密かに、そんな誓いを立てる
ここ最近の俺は


差し詰め、あいつ以上に情けない。







「たまにはハワイとか行きてぇなー。」



振り向いたユキは



『なーに言ってんのよ、セレブが!!』



ケロリと笑って居たから


俺は肩を撫でおろした。





その上、


一度もアパートを
振り返ることなく

毅然と車に乗り込んだものだから。



俺は、どうやら、

かなり不思議そうな顔をしていたらしい。






思い出は、少なからずあるだろうに。



それが、いい思い出ばかりではなかったとしても。









『なに、アンタその顔。』


あはは、とユキに笑われて


「生まれつきだっつーの。」


なんて、ありきたりな会話をしながら思う。




‥何があった、だとか


だから、俺と一緒に行く、だとか



そんな話しをユキは一切しなかった。






″隆志には言わないで″


なんて言われたもんだから


隆志くんに直接聞くわけにもいかずに。







だから、俺はてっきり



全ての真実を、



あいつの最大の嘘を



知ってしまったんだとばかり思っていたが、




まるで、そんなテンションではなかった。







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