【実話】アタシの値段~a period~








『ねぇ、浩介
ちょっと寄ってかない?』


窓の外に広がる海を見つめながら。



「暗いし危ねぇよ。」



そんな俺の少しの抵抗は



『お化けが出たら助けてあげるからっ!』



含み笑いと共に却下をくらった。







道端に車を停め


砂浜へ降りると



静かな波の音が
心地よく耳に響く。




真っ黒な水面に反射する
月の白色が


波に揺られ
神秘的に光を放っていた。




「走ると転ぶぞ!」



なんて

親父のような台詞に笑いながら


波際まで駆けて行ったユキは




不意に、空を見上げて立ち止まった。





「どうした?」



ユキに追いついた俺は


隣で同じように


空を見上げる。




「すげ‥‥‥‥。」






まるで、主役を引き立てるためだけに


用意されたカーテンのような


黒く澄んだ空。




そこに散りばめられた星の数は


そう、まさに


息を飲むほどの光景だった。






『見て。


‥‥手が届きそう。』





夜空へと差し出された細い手を


途端にサッと引き戻して



『アタシには‥届かない───。』



微かに囁いたその言葉は

波の音にも負けそうなほどに弱々しく。










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