【実話】アタシの値段~a period~
「やっぱり‥。」
クローゼットの上段の隅。
いつか、捨てるに捨てられないたぐいの書類箱の中、
そのうえ、箱の一番底におさめておいた封筒が
書類の一番上にきている。
ユキに合い鍵を渡した数日後
そういえば、と
焦ってここにしまったはずだった。
白い封筒に伸ばす手に
力は入らない。
スルリとそれを落として
拾い上げながら
もう一つ。
紙袋に入れて、
クローゼットに入れておいた
あの日壊れた
赤色の時計が
紙袋ごと 消えていた。
ユキが、どんな思いでそうしたのかは
分からない。
けれど
ユキが、マヤと俺とのことに気づいた、というのが
浩介の勘違いではない。
それだけは分かった。
だけど‥なぜだ。
ユキがわざわざ
こんな書類箱をひっくり返すなんて
そんなたまたま、あるのだろうか。
それに、この写真一枚で
全てを把握するなんて
不可能だ。
考えにくい。
疑問符が残る。
そんなことを冷静に考えられるほど
心臓の早さとともなって
俺の頭はフル回転していた。
失わないためなら、
なんだってする。
封筒の中から
写真を取り出すと
あの頃の笑顔のマヤの声が
今にも聞こえてきそうだ。
″ありえないんだけど。″
あいつなら、第一声に
そう言うに違いない。
ありえない‥か‥
そうだな、確かに
あっちゃいけないこと。
こんな状況でも
避けられても
憎まれても
苦しめると分かっていても
ユキを手放したくないなんて。