君が君を好きになって。2
鏡は語る
この家の一階の半分は、翠の自室だ。
防音もある程度され、二階で寝ている筈の碧に聞こえることは無いと思う。
「ストップ。其処は大きすぎる」
このピアノは、碧は触ったことが無いと言う。
「この部屋にすら、碧は入ろうとしないけれどな」
「…そうですか」
「音楽科、白羽君は音楽科に進むんだろう?」
「一応は」
「碧も音楽科に入れるよ」
──…え?
「え、そ…なんですか?」
「泣く程嫌そうだったけどな」
「…」
楽譜を見つめる。
「泣かれた時は、熱のせいだと思ってた」
ピアノについた指紋を拭きながら、翠は無表情に続けた。
「息子に泣かれるのは久々過ぎて、分からなくなったのかも知れない」
“綿貫可哀想だよ”
「…」
「…じゃあ休憩に何か飲み物を煎れて来るから、適当に腰を下ろしていてくれるかな」
「──はい」