君が君を好きになって。2
嫌に広いトイレで、白羽は鏡に映る自分をぼぅっと見ていた。
もし自分が、碧の立場に居たら、どうだろうか。
「嫌かもな…」
多分自分がこの家の子供なら良かったのかも知れない。
白羽の家はあまりそういうことに干渉したりしない。
「…なんで選べないんだか」
“絶交すれば”
莉桜の言葉。
「一段と上手になってたよ」
「そうですか?」
「綺麗な弾き方になっていた」
綺麗。
そういえば菜束も言っていた。
「…最近、僕のピアノを好きだって言ってくれる人が居るんです」
翠は白羽を少し見た。
「そう」
「美術科に進む子なんですけど、勿論何を弾いても綺麗って言いますから…」
翠が頷く。
白羽は珈琲の波を見つめた。
「桜乃さんみたいなんです」
翠は珈琲をトン、と置いた。
綿貫 桜乃。
碧の母親。