君が君を好きになって。2

嫌に広いトイレで、白羽は鏡に映る自分をぼぅっと見ていた。

もし自分が、碧の立場に居たら、どうだろうか。


「嫌かもな…」

多分自分がこの家の子供なら良かったのかも知れない。
白羽の家はあまりそういうことに干渉したりしない。

「…なんで選べないんだか」

“絶交すれば”

莉桜の言葉。












「一段と上手になってたよ」

「そうですか?」

「綺麗な弾き方になっていた」

綺麗。

そういえば菜束も言っていた。

「…最近、僕のピアノを好きだって言ってくれる人が居るんです」

翠は白羽を少し見た。

「そう」

「美術科に進む子なんですけど、勿論何を弾いても綺麗って言いますから…」

翠が頷く。
白羽は珈琲の波を見つめた。

「桜乃さんみたいなんです」

翠は珈琲をトン、と置いた。








綿貫 桜乃。


碧の母親。



< 38 / 59 >

この作品をシェア

pagetop