君が君を好きになって。2
「芹沢君もう中に居るよ?」
──馬鹿。
何でこういうことしか言えないんだろうか。
菜束が若干しょげていると、碧は菜束の手元を不思議そうに見た。
「箸?」
「あ、落としたの」
「へぇ!何かに驚いたの?」
「えっ?ううん、違うよ。私がドジ踏んだの」
珍しい、なんて碧は笑って音楽室への扉を開く。
閉めた。
「え、え?」
「小玲さ!」
ぱ、と振り向く。
「美術科行くんだよね?」
「今のとこは…」
菜束の学校は、言わずもがな私立の中高一貫校だ。
しかし、一緒の校舎で中学は過ごしたが、高校は違う。
高校受験者も含めて、進学科、美術科、音楽科の三つに分かれるのだ。
しかし、大体中学出身者は進学科に進み、芸術科二つは別の学校のようなイメージを持っていた。
でもやはり菜束は美術科に進む方向で選択している。
絵が好き。
とはいえ、だから何になりたいとか、それ一本だとかいうようなことはなくて、
正直迷っていた。
別に進学科でいいのだ。
美術部に入って、趣味で終わらせたって。
でもそこに、「でも」って思う自分が居た。